働き方改革を進めるためには、業務改善が欠かせません。
業務改善を行うために、業務棚卸が重要な役割を担っています。
業務棚卸とは、大まかに言うと仕事の現状を把握することです。現状把握が、業務の改善・効率化にどのように影響を及ぼすのでしょうか。
この記事では、注目されている業務棚卸のメリットやプロセス、棚卸を行う必要性をご紹介します。また、業務改善を進めるにあたって、知っておきたいフレームワーク3選の解説をしていますので、是非参考にしてください。
業務改善を行うために必要な「業務棚卸」とは?
業務棚卸とは、現状の業務を洗い出し整理することです。
毎日行う作業から、年に数回の作業まで、できるだけ多くの業務を書き出して見える化します。
作業の重要度やかかる工数、使用するシステムや関わる人まで詳しく書くことが大切です。
日々の業務に追われていると気が付かなかった改善点が、書き出すことで見つかりやすくなります。
また、担当者以外の目線でチェックすることができるので、思わぬアイデアが浮かぶ可能性も高いです。
業務棚卸を定期的に行うことで、業務の効率化・生産性向上等が期待でき、働き方改革に繋がります。
業務棚卸から得られるメリット4つ
見える化による3M(ダラリ)の発見が可能になる
業務棚卸を行うことで、次のような日常業務の3M(ムダ・ムラ・ムリ)の発見が可能になります。
- 同じ作業や入力を2回以上行っていたというムダの発見
- 担当者や作業工程によって品質に生じてしまっていたムラの発見
- 作業量が適正値を超えてしまっていたというムリの発見
棚卸をしなければ気が付かなかった点に気が付くということが、業務改善や効率化の第一歩となります。
プロジェクトとは直接関係のない、突発的な業務や意識せず行っている作業に隠れた課題も見つかるでしょう。
業務を見直して改善ポイントを発見できる
棚卸によって業務が見える化されると、日々の業務に追われていては気が付かなかったことも、俯瞰することができます。
また、第三者の視点で見た方が、気が付くこともあるでしょう。
人によって作業の方法が違っていれば、マニュアルを整備することで改善可能です。
似たような作業を別々に行っていれば、ひとつにまとめることで効率化が図れます。
棚卸自体に時間がかかるからと敬遠せず、今後のためを思って定期的な見直しを行うことが大切です。
業務効率化で人的リソースの有効活用ができる
棚卸をして業務が効率化されれば、人的リソースを有効に活用することが可能です。
スタッフの得意分野・苦手分野がわかれば、得意を活かすことや、不得意分野の教育を行うきっかけにもなるでしょう。
また、人材不足だと思っていた業務も、効率化されれば適正な人数だったという可能性もあります。
新たな採用を行わなくて済めば、人件費の削減だけでなく採用にかかる費用も節約可能です。
担当者の仕事の偏りリスクを解消できるようになる
業務棚卸を行わずにいると、いつの間にか起こってしまうのが業務の属人化や作業量の偏りです。棚卸を行えば仕事の偏りリスクが発見でき、対策がとれます。
特定の社員しか行えない作業や作業量のばらつきを改善することで、担当者不在時のリスクを軽減できます。
マニュアルの作成や教育の徹底で、仕事の偏りは改善しておくことが大切です。
業務棚卸から改善までの具体的なプロセス(やり方)
1.業務をそれぞれの作業ごとに洗い出す
業務棚卸は、業務を洗い出すことからはじめます。
担当者ごと・作業ごとに、細かくても気になることは書き出していきましょう。
同時に作業頻度・発生タイミング・担当者・作業にかかる時間も記録します。
マニュアルの有無やその作業を行うために必要なもの・関係者等の情報もあると便利です。
日報や週報を書いている企業では、報告資料も参考にすると良いでしょう。
日頃から、作業を行う際にかかる時間を測るようにしておくと、効率良く棚卸ができます。
2.必要な作業と不要な作業を検証し、時間や量を把握する
洗い出した作業の一覧より、必要な作業・不要な作業を検証します。
重複している作業があれば、ひとつにまとめられないかという視点で見てみると良いでしょう。
また、作業時間が長いと感じるものは、手順に間違いがないか確認することで短縮できる場合があります。
自分以外の人が同じ作業をやる場合はどのくらいの時間が必要かを聞いてみると、適切な時間で対応できているかどうかの確認が可能です。
それぞれの担当者が、どのくらいの時間を費やすことで、どのくらいの量の作業ができるのかを把握します。
3.他部署と調整しながら各作業に対する施策を練る
省いても構わない作業や、時間を削減できそうな作業が見つかったら、関係部署と調整して施策を検討します。
マニュアルがないものや手順に間違いがあった作業は、手順書を作成することで誰が担当しても同じレベル・同じ時間で作業できるようになります。
重複している作業をまとめるために、システム改修が必要であれば、長期的な計画が必要です。
担当者に教育を施すことで、工程を変えなくとも作業時間を削減できるものもあるでしょう。
4.施策を実行し、時間をおいて業務フローの改善度合いの検証を行う
考えた施策を一定期間実行し、結果を評価します。
慣れるまでは、以前の方法がやりやすく工数も短い可能性があるので、1回きりではなく1か月程度は試してみることが大切です。評価は慎重に行いましょう。
また、「やってみる」ことで、新しい改善点が見つかる可能性があります。
試行錯誤を繰り返すことで、より最適な業務フローを見つけてください。
施策の実施前と後で工数を比較するためにも、作業にかかった時間はメモを取っておくようにしましょう。
5.定期的なリフレクションと業務フローの改善を行う
業務棚卸は、1回改善して終了ではありません。大切なのは振り返りです。
改善した業務フローを定期的に見直し、その時点での最適な方法を検討する必要があります。
理想は半年に1回は業務の棚卸を行うことです。
頻繁に行うのが難しくても、1年に1回は見直すことで業務棚卸の効果が高まります。
また、各業務の関係者が棚卸に関わることで、担当者が変わっても作業が滞る心配がありません。
組織変更や業界の変化にも柔軟に対応できる強い企業になるでしょう。
業務棚卸を経て改善を行うためにチェックすべきポイント5つ
1.業務内容を確認して担当者が適切か確認する
業務内容を確認する時は、適切な担当者が作業を行っているかどうかを確認することが大切です。
スキル・権限があるか、担当者の部署や自社で行うべき作業かどうか、といった視点で見ると適切かどうかを見極めやすくなります。
現在の担当者が適切ではない場合は、その理由を元に新しい担当者をアサインしましょう。
アウトソーシングした方が良い業務があれば、検討することも重要です。
2.作業工数が必要以上に多い作業はないか
棚卸した業務に、必要以上に工数がかかっている作業があれば、その原因を解析しましょう。削れる要素がなく、成果に見合わないほどの工数がかかっているとしたら、その作業自体が本当に必要かも検討してみてください。
仮に作業に時間がかかっていても、重要なので外せないものや大きな成果が得られているものを、無理に削る必要はありません。
ただし、効率化が図れる部分がないか検討し、アイデアがあれば試してみる価値はあるでしょう。
3.社内制度によって効率が悪くなっているところはないか
社内制度によって効率が悪くなっている場合は、全社で制度見直しの検討が必要です。
例えば、ワークフローの承認ルートに関わる人が多すぎて、決済までに時間がかかることが考えられます。
承認権限のある人が不在でフローが進まないとしたら、オンラインで承認が行えるようにすることや代理で承認を行える人を設定する等の方法で効率化が見込めます。
4.コミュニケーション等で作業が滞っていないか
従業員同士のコミュニケーションに問題がないかを確認することも重要なポイントです。
上司と部下の縦の繋がりだけでなく、他部署との連携といった横の繋がりでも円滑なコミュニケーションが取れているかを確認しましょう。
テレワークが増えたために、相談や依頼がしにくくなったケースがあれば、対策が必要です。
5. 課題や非効率な部分の解決(ツールの利用等)を検討する
洗い出した業務の課題や非効率な部分の解決には、次のような方法があります。
- 社内規定を変更する
- マニュアルを整備する
- コミュニケーションや業務効率化のツールを利用する
- アウトソーシングを利用する
問題を放置せず、できるだけ早めに対策を行うことで、業務改善の効果は高まります。
定期的に業務棚卸をし、課題の解決を行っていきましょう。
働き方改革でも重要視される業務棚卸|その目的とは?
業務の担当・プロセス・繋がりを明確にするため
新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、新しい生活様式が求められるようになり、働き方改革が進められています。
職場に出勤し、上司や同僚と顔を合わせて業務が進められていた時は、意識しなくてもコミュニケーションが取れ、お互いの作業状況が確認できていた会社も多いでしょう。
しかし、テレワークが主流になったことで、ほかの社員の業務内容や進捗状況が確認しにくくなったと感じている人もいます。
担当者同士が積極的に関わり風通しを良くすること、ほかの人が行っている業務との繋がりを明確にすることが、業務棚卸の目的のひとつです。
無駄な作業を省いて業務を効率化するため
業務棚卸は、業務を可視化する手段です。
業務が見える化されると、問題を抱えている部分が明確になります。
つまり、業務棚卸を行う2つ目の目的は、課題を解決し無駄な作業を省き効率化を図ることです。
日々の業務に真摯に取り組んでいるスタッフほど、問題点に気が付きにくいものです。
業務内容を一覧にすることで、作業の重要度やかかる時間・成果等を考慮しながら、無駄の多い作業が発見できます。
第三者の目で確認できるのも、業務棚卸が課題発見に役立つ理由のひとつです。
属人化しないように各業務の情報をほかの担当とも共有するため
業務棚卸の3つ目の目的は、業務の属人化を防ぐことにあります。
特定の社員がいなければ、行えない作業をできる限りなくすことが重要です。
誰が行っても同じレベルの成果が出せるように、マニュアル等の整備を行い作業の標準化を図ることで、結果として生産性の向上・業務効率のアップに繋がります。
特に人材不足に悩む企業や、テレワークが進んでいる企業では、業務が属人化しないように気を配ることが大切です。
業務の情報を関係者で共有し、スタッフの急な休みや欠員に柔軟に対応できる、強い組織造りが行えます。
業務棚卸を行い業務改善を進めるためのフレームワーク3選
業務改善効果を発揮するECRS(イクルス)
ECRS(イクルス)は、次の順序で検証すると効率良く業務改善が行えるという考え方です。それぞれの頭文字をとってイクルスまたはイー・シー・アール・エスと読みます。
①Eliminate(排除) | 不要なものを洗い出し、排除すること 重複作業やコストに見合わない作業等、不要なものを取り除くことが業務改善の第一歩 |
②Combine(結合) | 結合してひとつにするという意味 似ている作業や部署を統合すれば、新たに採用を行わなくても必要な人員が確保でき、設備や備品を削減可能 |
③Rearrange(再配置) | 作業の順序を見直すこと 担当者や担当部署を変更することも検討される |
④Simplify(単純化) | 複雑な作業や煩雑な業務を簡単に・単純にすること 自動化・パターン化等の方法がある |
価値を生み出す流れの評価や分析を行うバリューチェーン分析
バリューチェーンとは、原材料の調達から商品が顧客に届くまでに、企業が行う活動を価値の連鎖として捉えた考え方です。
バリューチェーン分析はマーケティング手法のひとつとして、活用されています。
ビジネスを主活動と支援活動に分類し、活動ごとに個別に分析することで、どのタイミングにどのような利益が生み出されているかを明確にするフレームワークです。
活動ごとにかかる費用も把握でき、コスト戦略に役立ちます。
また、ビジネスが視覚的に整理できるようになり、自社の強みや弱みを知ることで差別化戦略が可能です。
どのような業種でも適用できるので、自社ビジネスの発展に役立ててください。
業務フローの可視化が可能なBPMN(ビジネスプロセスモデリング表記法)
BPMNとは業務プロセスの手順をフローチャートで表記し、モデル化する手法です。
業務の流れやルートの分岐が可視化され、各プロセスとそれぞれの繋がりが明確になります。
シンプルな考え方のため習得が容易で、国際標準規格なので社内外を問わず共通の認識で使用できるのがメリットです。
フローを見れば、どこに強みがあるのか、どこを改善したらよいのかを把握しやすくなります。
そのため、業務改善のフレームワークとして注目されています。
まとめ
働き方改革の推進において、業務改善を行うために重要な役割を担う業務棚卸の解説をしてきました。
作業を洗い出すことで業務内容や課題を可視化し、改善点を発見・対処することで業務の効率化が可能です。
不要な作業を削り業務を単純化することは、従業員のキャリア形成や企業の発展にも繋がります。
業務棚卸を定期的に行い、業務改善を行うことを習慣化していきましょう。